星月夜

目の前には満天の星空、隣には最愛の恋人。



「『降るような』っていうのはこういうのを言うんだろうな」
のんびりした口調でそう言うと、アーヴァインはごろりと草原に仰向けになった。
「濡れるぞ」
「平気平気。ま、ちょっと冷たいけど。スコールも転がっちゃえば? 星が迫って見えるよ」
「遠慮する」
「そんなこと言わないでさ…」
言うなりアーヴァインはスコールの腕を掴んでそのまま引き倒した。
「うわ!?」
不意を衝かれて頭を打ってしまったスコールは、けれども眼前の光景に思わず息をのんだ。
「ホラ、ね?」
「…アタマ打った」
「あはは…ごめん。でも言った通りでしょ?」
「……確かに」

どれくらいそうしていたのか二人は黙って星を眺めていたが、しばらくしてアーヴァインが沈黙を破った。
「なんだかこうしてると世界に取り残されたような気がしない?」
「世界に?」
「そう」
「空がだんだん近づいて、何処からが地面なのか、自分は何処にいるのか、そういうことが判らなくなってさ。気が付いたら独りきり…みたいな感じ」
「ああ…でもお前は居てくれるんだろ?」
「何?」
「世界に取り残されて周りに誰も居なくなったとしても、あんたは残ってくれるのかってこと」
「それはもちろん! 僕が君を置いていくわけがないでしょう」
「なら、いい」
照れ隠しのつもりか、スコールは横になったままあさっての方向を向いた。
「ふふ。あのさスコール、『七夕』って知ってる?」
「タナバタ? 知らないな」
「古代の伝説でね、天の川の両岸に分かれることになった恋人同士が年に一度だけ逢える日なんだって」
「へぇ」
「年に一度しか逢えなくてもずっと相手を想っていられるって、何かすごいよね」
「それだけお互いが大事だってことだろ…で、それがどうしたって?」
「うん。だからさ、僕も同じくらい君が大事だよ~って言いたかったんだよね」

アーヴァインは身を起こし、傍らのスコールに手を伸ばす。指先が前髪をすくい上げ、夜露に濡れた髪は星影に照らされて淡く光っていた。

「ちなみに今日がその七夕だよ」