Light on The Christmas

灯り始めた街の灯は、何だか少し暖かくて、何だか少し嬉しくなった。



クリスマス・イヴ。街全体がそわそわした雰囲気に包まれて、心做しかこちらにまで楽しい気分が伝わってきそうな、そんな一日。一年の終りということも手伝って、何かとすれ違うことが多かった俺達は、久々のオフだというにも関わらずセルフィの買い物に付き合わされていた。
「何だかんだ言ったってスコール達は良いよ? けど街中がカップルで埋め尽くされるこの時期に、あたしは一人寂しく新年を迎えようってんだから! ちょっとくらい付き合ってくれても良いでしょ?」
というのが彼女の言い分だ。

洋服やら雑貨やら、既に10件近く回って、俺もアーヴァインも両腕には抱えきれない程の大荷物。それに引き換えセルフィは、小さなバッグ一つだけをぶらぶらさせて先を歩いている。
「セフィ~ちょっと休まない~?」
「何言ってんの? まだまだ行きたい所はいっぱいあるんだよ~? ここでしょ、あそこでしょ、それからあのお店にも行きたいな~♪」
しれっと答える彼女に辟易しつつ、がっくりと肩を落とすアーヴァイン。セルフィはそんな彼を無視してどんどん先へ行ってしまう。
「女の子って解んない…」
「っていうかこれ以上まだ買う物が有るってことの方が不思議だ…」
「……そだね」
本当に女っていうのは買い物好きな生き物だと思う。目的が有っても無くてもすぐに行きたがるし、買いもしないものを何時間も物色するし。まぁ今日の場合は『買いもせずに』ということはないが、かと言ってこれでは――
「付き合わされる身にもなってくれ…」
「スコールゥ! 何か言った~?」
その上厄介なのがこの地獄耳だ。こと自身の話題ともなれば尚更のこと。
「いや…」
危ない危ない。聞かれたら後が怖い。思わず息を吐くと、隣で見ていたアーヴァインがくすくすと笑い声を立てた。
「それじゃ行きますか」
「了解」
顔を見合わせて肩を竦めてから、俺達は大分前を行くセルフィの後を追うことにした。

「あ~!!」
突然セルフィが奇声を上げた。通りすがる人達はことごとく不審な視線を投げかけてくる。勿論彼女はそんなものお構いなしだ。
「何?」
「ケーキ! 新作! あぁ~しかもクリスマス限定ぇぇ!? 知らなかった、ちょっとショックゥゥ~!!」
「……何処?」
何だか本気でショックを受けているらしい彼女が示したのは、小さいけれど小奇麗な洋菓子店。確かにそれらしいことが書かれた立て札が出してあるが、ここからだと10mと少しといった所だろうか? よく見つけられたものだ。
「ちょっと行ってくるね? あっアービン達はこの辺で待っていてくれて良いから!!」
そう言ったかと思うと、あっという間に駆け出していくセルフィ。彼女のケーキに対する執念には感心させられるやら呆れるやら………とにかく凄まじい。
「この辺で…ってどうせいっちゅ~のかね」
「さぁ」
大量の荷物を抱えたまま呆気にとられて突っ立っていたら、一足先に我に返ったアーヴァインが肘先でちょんちょんと突ついてきた。彼の目の遣る方を見ると、ここから少し離れた所が広場になっていて、大きなクリスマスツリーが立っていた。周りにはツリーを囲むようにしてベンチも置いてある。そこに行こうということらしい。

ドサドサと荷物を置いて腰を下ろすと、他のベンチでも同じように荷物を抱えた男共が疲れた顔をして座り込んでいるのが見えた。
「何処も同じってことね~」
「二人も連れている奴は居ないみたいだけどな」
「…はは」
アーヴァインは力無く笑ってそのまま背もたれに体を預けると、折角のイヴなのにね~? なんてぼやいてみせた。
そのとき、ふと視界の隅で街灯の灯がぽっと灯った。一つ、また一つ。淡い黄色の光が街中に溢れていく。慌てて時計を見ると午後四時を少し過ぎた頃。冬の日は早い。
「もうこんな時間? ホント、今日はこれだけで終っちゃったね~」
「まだ帰って来ないな、セルフィ」
「あ~ぁ! イヴの日くらいスコールといちゃいちゃしたかったのに~!!」
叫んで座り直したアーヴァインが片手を挙げた。見ると丁度セルフィが白い箱を持ってこちらへ駆けて来るところだった。

「お待たせ! みんな美味しそうで迷っちゃった♪ あ、二人の分も在るんだよ~? 帰ったら食べよう!」
喜色満面といった様子で楽しそうに話す彼女の後ろでツリーが揺れる。と、次の瞬間てっぺんから根元へ掛けて光が掛け抜けていった。
枝に渡された電飾は、たくさんのオーナメントに反射して様々な色にツリーを彩っている。その光景はとても幻想的で、何処か懐かしかった。
何となく目を離せずにじっと眺めていると、頬に隣からの視線を感じた。そっと振り返った所でアーヴァインと目が合う。何かと思って見ていたら、急にふにゃっと表情を崩して笑い出した。
「スコールの横顔がね、光に照らされて凄く綺麗だったんだよ?」
そう言うアーヴァイン自身の顔も普段とは少しだけ違う色を覗かせていて。
それは街灯と同じ心地良い暖かさ。クリスマスは人を優しい気持ちにさせると言っていたのは誰だっただろう?
そんなことを考えている内に、口をぽかんと開けてツリーを見上げていたセルフィがくるりと向きを変えて言った。
「メリークリスマス!!」

こんなクリスマスもたまには悪くない。