Rainy Days

雨季特有の気まぐれな雨。降っては止んでを繰り返し、何をするにも気力が沸かない、そんな一日。

「う~~」
鏡の前で唸っているのはアーヴァイン。普段は一つに束ねている髪を無造作に背に流している。
「う~~~…」
「何なんだよさっきから! 鬱陶しい」
手近に在ったクッションを投げつけて、ベッドの上で上半身を起こしたスコールがアーヴァインを睨め付けた。
「だってさ~、こう毎日雨が続くとまとまらないんだよ~…ふぅ」
「『ふぅ』じゃないだろうが。いつまでもウジウジしてるならどっか行け」
「えええ~!? ここ僕の部屋なのに…」
「知るか」
「…ひどい…」
アーヴァインは飛んできたクッションを抱えたまま、半泣き状態で床に寝転がった。そしてごろごろと転がりながら、またぼやく。
「いっそのこと切っちゃおうかな~。もう要らないし」
「要らないって?」
アーヴァインの台詞に素早く反応するスコール。今度は完全に身体を起こして座り直した。
「そういえば…どうして髪伸ばしてるんだ?」
「あれ? 言わなかったっけ。コレはね、願掛けだったんだ。『いつかみんなと再会できますように』ってね。だからもう伸ばしてる理由も無くなっちゃったわけ。要らないっていうのはそういうこと」
「……」
転がったままのアーヴァインと、ベッドの上のスコールの目が合った。スコールは何も言わない。
「スコール?」

「もったいない…」
「はい?」
「綺麗な髪なのに切るだなんてもったいないって言ったんだ。それに」
「それに?」
「せっかく似合ってるのに」
さらさらと口を衝いて出てきた言葉は意外なものだった。アーヴァインははたと動きを止め、まじまじとスコールの顔を見る。
「何だよ」
「え…と。君がそういうこと言うとは思わなかったっていうか…だからその…」
「そう思ったから言っただけだ。悪かったな」
ぷいと横を向いてしまったスコールに慌てて声を掛ける。
「違う違う! そうじゃなくて~!!」
「うるさい」
「ああ~! スコール~!!」
「だまれ」
「…うう…」

スコールが一度ヘソを曲げると機嫌を直させるのは大変だ。特にこんな雨の日は。そのことを、アーヴァインは失念していた。
(どうしようかな。しばらく機嫌直らないだろうな~…それにしてもこういうトコ、スコールも結構子供っぽいよね)
まぁそこが可愛いんだけど、と思わずもらした苦笑をスコールは聞き逃しはしなかった。
「何がおかしい」
「ん、スコール可愛いなぁと思って」
「は?」
怪訝そうな顔をしたスコールの眉が、何を言っているんだとでも言うように更に顰められる。
「愛してるよvv」
その言葉に今度はスコールが固まった。じわじわと頭に血が上ってくるのを意識しながら、もう一つのクッションを投げつける。
「お前なんかキライだっっ!!」

うまいことクッションを避けつつ、やはりごろごろと転がって笑うアーヴァインは、自分の髪のことなどすっかり忘れて
(これだから雨の日は嫌いになれないんだよな)
と心密かに考えたのだった。