The Way to The Home

長く続くフリーウェイはやがて街を抜け、郊外の牧草地帯へと入って行く。既に夕方と呼べる時間帯になっているにもかかわらず未だ日は高く、強い日差しに照らされた草色が目に眩しい。

「まだ着かないのか?」
今日何度目かになる質問をする。ハンドルを握るアーヴァインからは、後少しだよというこれまた何度目かの返事が返ってきた。
「なぁ、何処に向かってるんだ?」
これ以上の答えは期待できないと踏んで、質問を変えて再度聞いてみる。任務の帰りに寄りたい処があると言うこいつに付き合ってこうして来たは良いものの、代わり映えのしない景色と午後の陽気にいささか退屈気味なのは否めない。
「教会…いや、お墓かな」
わけ解んないよねとアーヴァインは少し笑い、大きく反れてフリーウェイを降りた。

小さな街だった。端から端まで歩いても20分と掛からない、そんな小さな街。その入口を入って右手奥にタイルレッドの尖塔を持つ教会が見える。先を歩いていたアーヴァインは迷わずそこを目指して進んで行き、扉の前で立ち止まると振りかえって手招きをした。

「ここ、僕の故郷」
言いながら扉に続く石段に腰掛けて、組んだ手の上に頭を乗せる。それから上目使いに座ったらどうかと聞いてき、俺はひんやりとしたその石段に腰を下ろした。

「僕を引き取ってくれたのは母方のじいちゃんでさ、元々は軍に居たらしいんだけど僕を引き取ってから引退したんだ。その後ガルバディアに在った屋敷を売り払って移り住んだのがこの街…っても村みたいなもんだけどね」
初めて聞く話。そういえば昔ママ先生と髭を生やした年配の男性とが机を挟んで何か話しているのを見たことがある。確かその何日か後のことだ、アーヴァインが引き取られていったのは。
「実際にここで暮らしていたのは何年も無いんだ。すぐにガーデンの寮に入ったから」
それでも3年位は居たのかな、何処からともなく現れた黒猫を目先にアーヴァインは思案する。
それではじいさんはどうしたのだろう? わざわざこんなところに来て、一緒に暮らしたのはたった3年?
「6年前に死んだよ。僕は研修合宿でさ…知らせを聞いたのは二日後だった。遺品はほとんど無かったよ。結局手元に残ったのは日記だけ」

裾をはたきながら立ち上がったのに合わせて自分も石段を後にしてついていく。教会の裏手に回れば、そこは墓地になっていた。アーヴァインは隅の方、薄汚れた墓石の前で立ち止まるとそれに向かって話し掛けた。
「来たよ、じいちゃん」
アーヴァインが墓石の周りを掃いたり花を供えたりしているしばらくの間手持ち無沙汰になった俺は、一歩下がってその様子を眺めながら、手伝わなくて良いのかな、とか随分石が汚れているな、とかそんなことを考えていた。

「スコール」
俺がちょっと余所見をしている内にすぐ傍まで戻ってきていた。
「…もう良いのか」
「うん、報告は済んだからね。それじゃ帰りますか。退屈だったでしょ?」
そう言うとアーヴァインはさっさと行ってしまう。俺はじいさんの墓に頭を下げ、急いで後を追った。

幾分弱まった日差しを背に、車はまたフリーウェイに戻った。
「悪いね~付き合ってもらっちゃって」
「別に。急ぎの用があったわけでもないし」
実際任務の完了報告は前日のうちに済ませてしまっていたし、折り返しの連絡で任務終了と同時にそのまま休暇に入って良いという許可も貰っている。
「ん。でも来てくれたおかげでちゃんと報告できたから」
先程と同じように『報告』と言う言葉を使った。それが何となく気に掛かって思わず聞き返す。すると大した意味は無いと苦笑いしつつ、それでもきちんと訳を説明してくれる。
「じいちゃんがまだ生きていた頃のことなんだけど、僕ガーデン辞めようかとか悩んでたことがあって。ま、理由は色々あったんだけどさ。そしたらじいちゃんに『それが正しい選択なのかは別として、自分が後悔しない道を選びなさい』って言われたんだ。それで考えた結果、今もこうして居るわけだけど」
「…それで?」
「言われたのが最後に会った日でさ、僕がどんな選択をしたのか報告出来ず仕舞いだったんだ。あそこには葬式の日以来行ってなかったし」
本当の所はこれで良かったと自信を持って思えるようになったのはつい最近で、来辛かっただけなんだけど…アーヴァインは冗談めかしてウィンクをした。

話を聞いていて思い出したのはトラビアでのあの話。アーヴァインはこれまでに決めてきたことを大切にしたいと言っていた。こう言うところもきっとじいさんの言葉が影響しているに違いない。
「何か悪いね、こんな話ばっかで」
「いいよ。あんたのそう言うのが聞けて、俺としては結構楽しい」
言って隣を見上げれば、その口元がほんの少しだけほころんだような気がした。

道はまだ続いている。